蘭学事始(1)  高村忠彦(5班) 2004.02.06
はじめに
 蘭学といっても、もとよりオランダ医学の事ではなく、美しい花を開くラン科植物についてご紹介してみようと言うことです。蘭というと何か特別の植物と感じられる方が多いようで、例えば高貴なものとして骨董品的価格で取引される東洋蘭、花の女王と称えられるカトレヤ等の洋蘭、山野で出会う可憐な野生蘭等「蘭」と名がつくだけで特別なものとして扱われているようです。
 ある人が言っていました。「花というものは、植物が子孫を残すために、主として昆虫を呼んで受粉させるための道具だが、ラン科植物は昆虫よりもむしろ人間を惹きつけて、子孫を繁栄させることに成功した植物群である。」と・・。確かに人間は、蘭の美しさに惑い、熱帯のジャングルに分け入って珍しい蘭を集めてきて、わざわざ温室まで建てて増殖を計り、交配して新しい品種を作り出しています。「熱帯雨林が人間の営みにより滅亡しても、ラン科植物だけは人間の庇護の下で繁栄するだろう。」と言われる所以です。
 ラン科植物は、日本に約250種の自生があり、全世界では25,000〜30,000種が自生していると言われています。この数字は一つの科としては、キク科(約25,000種)と共に、最大です。これは昆虫達を惹きつけるために、様々な進化を遂げた花を開くことにより、子孫繁栄に成功した賜物でしょう。例えば、オフリスというある種の蜂の雌にそっくりな花を開く蘭がありますが、良く調べてみるとこの花に生えている毛が、其の雌蜂の毛とそっくりで、此花に止まった雄蜂は騙された事に気付かず、しっかりと受粉作業をしてくれます。さらに驚くべき事は、この花は雌蜂が雄蜂を呼ぶフェロモンとそっくりな匂いまで出して雄蜂を誘惑するらしいのです。一方のキク科植物は、一個の花は小さいのですが、沢山の花が集まってまるで1輪の花のように見せかけます(頭状花)。一個の花を最大限に進化させたラン科植物と、花の集団(花序)で勝負するキク科植物が、同じ位の多くの種類を進化させて、植物界の王座を争っているのも面白いことです。

 これから、この膨大な蘭の世界について、私のわずかな出会いの中から少しずつご紹介して行きたいと思います。皆様の中にも洋蘭を貰ったり買ったりされて、後の管理に困っておられる方も居られる事と思いますが、次の年も美しい花を咲かせたいとお考えの方の参考になれば嬉しく思います。

 今回の写真は、今年の1月に船橋東武百貨店で開催された船橋蘭友会主催の洋蘭展に出品された中から、最もポピュラーなものを選びました。
 これからの時期、東京ドームなど各地で洋蘭展が開催されます。洋蘭というのは冬の花というイメージがあるかもしれませんが、決して冬だけに咲くものではなく、殆ど一年中花を見ることが出来ます。確かに、洋蘭の花は冬に見かける事が多いのですが、その理由としては@冬は屋外の花が乏しく、冬に艶やかな花を着ける洋蘭が喜ばれること、A高温の時期は折角咲いた花の保ちが悪く、昔から「夏咲きに名花無し」と言われています、B南半球の原産種にとっては、北半球の秋が春に当たり、冬に咲くのが自然である種も多い事、などが挙げられます。
 次回は洋蘭の代表カトレヤ類に絞って、ご説明しようと思います。
カトレア
デンドロビウム
シンビジウム
蘭学事始(2)  高村忠彦(5班) 2004.03.09
カトレヤの栽培
  1. カトレヤに限らず、洋蘭は「環境で作るもの」と言えます。蘭は世界中に分布し、それぞれの環境の中では、強く生きている植物群です。温度、日照、植込み材料、通風等、其の蘭に適した環境に置いてやれば、元気に生育して立派な花を咲かせてくれます。この内、一つでも不適であれば、いくら苦労して世話を焼いても、良い結果は得られません。
  2. 温度
    カトレヤの好む温度は、10℃以上と考えてください。ミニカトレヤやソフロニティス、レリア、エピデンドルム等の中には、5℃以上あれば、十分育てられるものもあります。大輪系の物の中には、15℃以上欲しいものも有りますが、一般には最低10℃あれば十分でしょう。日本家屋では、冬の朝、10℃を保つのが難しい場合もありますが、ワーディアン・ケースや段ボール箱等を利用して、何とか保温してやってください。箱の保温には、足温器やヒヨコ電球等を利用します。
  3. 日照
    カトレヤ類は一般に強い光を好みます。日照不足では、株は育ちますが花が咲きません。観葉植物ではありませんので、出来るだけ日に当てて丈夫に育てます。但しあまり強い光に終日当てると、日焼けを起こすことがあります。特に夏は午後の西日を避けるようにして下さい。終日陽のあたる場所では、ダイオネット等を使って、50%程度遮光します。
  4. コンポスト(植込み材料)
    カトレヤ類は、殆どが樹木の上で生活する「着生蘭」です。植込み材料は土ではなく、水苔・軽石礫・バーク・クリプトモス(杉皮)・ヘゴ・コルクなどが用いられます。鉢も空気の流通の良い素焼鉢、木枠、穴あき鉢等が用いられます。
  5. 通風
    樹上生活の着生蘭にとって、風は絶対必要な要素です。保温を重視して、密閉した所に閉じ込めると、良い生育は望めません。気温の高い季節には、屋外に出してやって、風と太陽に当ててやってください。
  6. 潅水
    水は植物の生育にとって、不可欠なものです。蘭の水遣りは難しいものと、思い込んでいる人が多いように思えますが、基本的には乾湿の繰り返しが重要です。何時もジメジメと濡れていてはいけません。しかしカラカラに乾燥していてもいけません。特に、水苔やクリプトモスの場合、一度完全に乾燥すると、次の水遣りのときに、水を弾いてうまく吸水しなくなる恐れがあります。蘭の新芽や新根がどんどん伸びている時には、十分に水遣りをして下さい。
  7. 施肥
    樹上生活する蘭は、多くの肥料は必要ではありません。一般の植物より薄い肥料を生育期に施してください。(草花に1000倍と書いてある液肥なら、2000〜4000倍)遅効性の有機肥料を株元に置肥しておけば、潅水時に少しずつ溶けて長く効果が続きます。
  8. 病害虫の防除
    洋蘭の病害虫は、案外少ないもので環境が適していれば、殆ど防除作業は不要です。一番恐ろしいのは、ウィルス病で、これには治療薬はありません。他に伝染しないように、焼却処分するか隔離栽培します。害虫で被害の大きいのは、カイガラムシ、ハダニアブラムシ等で、有効薬剤を適期に散布します。一番腹が立つのは、ナメクジ、マイマイの類で、大事に育てた貴重な蘭に蕾が出てきて喜んだら、次の日には綺麗に食われてなくなっています。メタアルデヒドを含んだ誘殺剤が、色々な商品名で売られています。
  9. 植替え
    一番手間が掛かり、重要な作業です。新しい根が伸び始める頃が最適ですが、なかなか分りにくい種類もあります。一般には、春の気温が上がってきた頃が目安です。高温性の種類は、温度が上がってから植え替えます。鉢の材質と大きさを選び、コンポストを決めたら、これから出てくる新芽の方向を開けて植付けて下さい。鉢底には水捌けと、空気の流通を良くする為、鉢カケや発泡スチロール片、軽石礫などを入れて、底穴にはナメクジ等の侵入を防ぐために、鉢底網を置きます。次回は、シンビジウムについて述べさせていただきましょう。
ソフロレリオカトレヤ リムファイヤー
ソフロニティス コクシネア
代表的なカトレヤ交配種
カトレヤの交配新属は、略号で表示されることが多く、判り難いので主要なものをまとめてみましょう。蘭展を見に行くと、この略号で名前が記されていますので、参考にしてください。
C:カトレヤ L:レリア B:ブラサボラ S:ソフロニティス Bro.:ブロートニア Epi.:エピデンドルム Dia.:ダイアクリウム Scho.:ションバーキア
以下は交配新属
Lc.:レリオカトレヤ(レリア×カトレヤ) Bc.:ブラソカトレヤ(ブラサボラ×カトレヤ)
Sc.:ソフロカトレヤ(ソフロニティス×カトレヤ) Blc.:ブラソレリオカトレヤ(ブラサボラ×レリア×カトレヤ)
Slc.:ソフロレリオカトレヤ(ソフロニティス×レリア×カトレヤ) Ctna.:カトレトニア(カトレヤ×ブロートニア)
Epc.:エピカトレヤ(エピデンドルム×カトレヤ) Dc.:ダイアカトレヤ(ダイアクリウム×カトレヤ)
Smbc.:ションボカトレヤ(ションバーキア×カトレヤ) Pot.:ポチナラ(カトレヤ×ブラサボラ×レリア×ソフロニティス)
Yam.:ヤマダラ(カトレヤ×ブラサボラ×エピデンドルム×レリア)
まだまだ沢山ありますが、今回はこの位にしておきましょう。次回はカトレヤの栽培方法について述べさせていただきます。
蘭学事始(3)  高村忠彦(5班) 2004.04.06
カトレヤの栽培
  1. カトレヤに限らず、洋蘭は「環境で作るもの」と言えます。蘭は世界中に分布し、それぞれの環境の中では、強く生きている植物群です。温度、日照、植込み材料、通風等、其の蘭に適した環境に置いてやれば、元気に生育して立派な花を咲かせてくれます。この内、一つでも不適であれば、いくら苦労して世話を焼いても、良い結果は得られません。
  2. 温度
    カトレヤの好む温度は、10℃以上と考えてください。ミニカトレヤやソフロニティス、レリア、エピデンドルム等の中には、5℃以上あれば、十分育てられるものもあります。大輪系の物の中には、15℃以上欲しいものも有りますが、一般には最低10℃あれば十分でしょう。日本家屋では、冬の朝、10℃を保つのが難しい場合もありますが、ワーディアン・ケースや段ボール箱等を利用して、何とか保温してやってください。箱の保温には、足温器やヒヨコ電球等を利用します。
  3. 日照
    カトレヤ類は一般に強い光を好みます。日照不足では、株は育ちますが花が咲きません。観葉植物ではありませんので、出来るだけ日に当てて丈夫に育てます。但しあまり強い光に終日当てると、日焼けを起こすことがあります。特に夏は午後の西日を避けるようにして下さい。終日陽のあたる場所では、ダイオネット等を使って、50%程度遮光します。
  4. コンポスト(植込み材料)
    カトレヤ類は、殆どが樹木の上で生活する「着生蘭」です。植込み材料は土ではなく、水苔・軽石礫・バーク・クリプトモス(杉皮)・ヘゴ・コルクなどが用いられます。鉢も空気の流通の良い素焼鉢、木枠、穴あき鉢等が用いられます。
  5. 通風
    樹上生活の着生蘭にとって、風は絶対必要な要素です。保温を重視して、密閉した所に閉じ込めると、良い生育は望めません。気温の高い季節には、屋外に出してやって、風と太陽に当ててやってください。
  6. 潅水
    水は植物の生育にとって、不可欠なものです。蘭の水遣りは難しいものと、思い込んでいる人が多いように思えますが、基本的には乾湿の繰り返しが重要です。何時もジメジメと濡れていてはいけません。しかしカラカラに乾燥していてもいけません。特に、水苔やクリプトモスの場合、一度完全に乾燥すると、次の水遣りのときに、水を弾いてうまく吸水しなくなる恐れがあります。蘭の新芽や新根がどんどん伸びている時には、十分に水遣りをして下さい。
  7. 施肥
    樹上生活する蘭は、多くの肥料は必要ではありません。一般の植物より薄い肥料を生育期に施してください。(草花に1000倍と書いてある液肥なら、2000〜4000倍)遅効性の有機肥料を株元に置肥しておけば、潅水時に少しずつ溶けて長く効果が続きます。
  8. 病害虫の防除
    洋蘭の病害虫は、案外少ないもので環境が適していれば、殆ど防除作業は不要です。一番恐ろしいのは、ウィルス病で、これには治療薬はありません。他に伝染しないように、焼却処分するか隔離栽培します。害虫で被害の大きいのは、カイガラムシ、ハダニアブラムシ等で、有効薬剤を適期に散布します。一番腹が立つのは、ナメクジ、マイマイの類で、大事に育てた貴重な蘭に蕾が出てきて喜んだら、次の日には綺麗に食われてなくなっています。メタアルデヒドを含んだ誘殺剤が、色々な商品名で売られています。
  9. 植替え
    一番手間が掛かり、重要な作業です。新しい根が伸び始める頃が最適ですが、なかなか分りにくい種類もあります。一般には、春の気温が上がってきた頃が目安です。高温性の種類は、温度が上がってから植え替えます。鉢の材質と大きさを選び、コンポストを決めたら、これから出てくる新芽の方向を開けて植付けて下さい。鉢底には水捌けと、空気の流通を良くする為、鉢カケや発泡スチロール片、軽石礫などを入れて、底穴にはナメクジ等の侵入を防ぐために、鉢底網を置きます。次回は、シンビジウムについて述べさせていただきましょう。
カトレヤ 1
カトレヤ 2
カトレヤ 3
蘭学事始(4)  高村忠彦(5班) 2004.05.08
シンビジウムについて
 シンビジウムは、カトレヤ類が中南米の蘭であったのに対し、アジアが原産地です。この日本にもシュンラン、カンラン、ヘツカランを始め自生している種類があります。従って、カトレヤ類よりもずっと栽培しやすい品種が多いのです。特にシュンラン等を親に使った交配種は、寒さに強く、温室が無くても十分栽培可能です。東南アジアの大型着生種は、花が大きく、色彩も美しいので、様々な交配種が作り出され、見事な鉢花として大量生産されています。花色も、褐色や緑の地味な物が多かったのですが、近年では、ピンク、赤、黄色、白の様な華麗な色彩を中心とした品種が主体となってきました。
 ‘マリリン・モンロー’、‘マリー・ローランサン’、‘ブリジット・バルドー‘、’あんみつ姫‘等個性的な固体名を持った品種が市場に溢れています。近年流行りだした物に、所謂、下垂性シンビジウムというグループが有ります。これは花茎が株元から伸び始めると、直に下向きに伸びて鉢の縁から垂れ下がるのです。樹上に着生していた原種は、花房を垂れ下がらせて蜂を呼べば良い訳です。鑑賞しようと言う人間は、鉢を上から釣ったり、高い台に乗せたり面倒なことを考えなければなりません。
 日本の野生種にはヘツカランと言う物が、鹿児島県の辺塚と言う所で、見つかっています。これが日本で唯一の着生シンビジウムでしょう。サラジーン‘アイスキャスケード‘と言う、白花品種が人気を博しています。サラジーンには、ピンクを帯びる個体もありコイヒメ‘と名付けられています。湖衣姫は武田信玄の伝説に出てくる、諏訪湖の精と言うべきたおやかな姫からの命名でしょう。シンビジウムの育種は、日本が世界一と言ってよく、徳島県の河野メリクロン、山梨県の向山蘭園など有名な育種業者が数多くあります。中でも、河野メリクロンは世界最大のシンビジウム開発業者と言って良く、其のブランド「あんみつ姫」は、世界のシンビジウム業界を席巻しています。
シンビジウム 1
シンビジウム 2
シンビジウム 3
シンビジウムの栽培
  1. 温度
    シンビジウムの好む温度は、カトレヤ類より低温でよく、特に小型種で東洋蘭を片親にした品種は凍りさえしなければ大丈夫です。
  2. 日照
    シンビジウムは日照を好む蘭です。一年中無遮光で栽培すると、花着きが良くなります。但し、真夏の強光に終日当てると、日焼けを起こす恐れもありますので、出来れば真夏のみ西日を避ける場所に置いて下さい。また、水切れは日焼けを助長しますので、潅水には十分気を使ってください。
  3. コンポスト(植込み材料)
    水捌けが良く、空気の流通が良いものなら、あまりコンポストは選びません。ミズゴケ軽石礫、バーク、クリプトモス等から、適当なものを選んで混合したミックスコンポが多く使われています。自分の配合したオリジナルコンポストで、すくすく育って美しい花を開くシンビジウムは可愛いものです。
  4. 通風
    植物にとって、風即ち空気の動きは大切なものです。常に微風に当たっているような環境が、シンビジウムにとっても最適です。勿論、葉や花が傷つくような強風は避けねばなりません。
  5. 潅水
    シンビジウムは水を好む蘭です。礫を主体に植えて、朝晩水を掛け流すほど与えれば、失敗は少ないでしょう。「シンビジウムは水生植物である」と言う言葉もあるほどです。寒い季節で、シンビジウムの生育が停止している季節を除いて、十分な潅水を・・。
  6. 施肥
    シンビジウムは肥料も大好きです。その他の洋蘭よりも多量の肥料を与えます。水を大量に与えますので、余分の肥料分は流れてしまいます。油粕と骨粉を混合した固形肥料を、株元に2ヶ月に一度置いてやりましょう。
  7. 病害虫の防除
    シンビジウムは、病害虫の少ない植物と言えます。一番恐ろしいのはやはりウィルス病で、接触伝染させない注意と共に、アブラムシの防除を心がけてください。その他は、カトレヤの項に準じます。
  8. 植替え
    植替えは、3月中に済ませてください。これより遅れると、其の後の生育が遅くなり、来年花が見られなくなる恐れがあるからです。この頃にはまだ花が咲いていることがあります。この花は切花として楽しんで、株の植替えを優先します。シンビジウムは根が密集して、鉢から抜けないことがあります。水遣りを少し休んで、乾かし気味にすると抜ける場合もあります。どうしても抜けないときは、鉢を割って植え替えます。
蘭学事始(5)  高村忠彦(5班) 2004.06.09
デンドロビウムについて
 デンドロビウムは、シンビジウム同様東南アジアを中心に分布する大属で、1,000種余りの変化に富んだ種を含みます。多く作られているのは、ノビル系、デンファレ系、フォーミディブル系、キンギアヌム系等で、その他数多くの原種は趣味家のコレクションとして蒐集栽培されています。魅力的な美しい種が多いのですが、中には栽培至難のものもあり、安易に手は出さない方が無難です。
  1. ノビル系デンドロビウム
    一般にデンドロビウムと言うと、思い浮かべるのがこのノビル系デンドロビウムでしょう。円柱状のバルブに、多くの節があり各節から短い花梗を伸ばして、2〜4花ずつの美花を開きます。日本のセキコク(デンドロビウム・モニリフォルメ)もこの系統に含められ、低温性小型品種の育成に使われています。
  2. デンファレ系デンドロビウム
    デンドロビウム・ファレノプシスとそれに近い種を交配して作り出された、華やかな花を開く一群のデンドロビウムを、デンファレ系と呼びます。このグループは高温性で日本の気候に馴染みにくいので、東南アジアで大量に栽培され、切花として輸入され、比較的安価な切花として広く利用されています。鉢花としても売られていますが、一般家庭では育てにくく、越冬が難しいので余りお勧めできません。
  3. フォーミディブル系デンドロビウム
    デンドロビウム・インファンディブルムとデンドロビウム・フォルモースムの交配種がフォーミディブルで、美しい大輪の白花を咲かせる丈夫な品種です。茎葉に黒い毛が生えているのも特徴です。夏咲きの品種なので、花が終わったら直に植替え・株分けを行います。夏は出来るだけ涼しいところに置き、冬は耐寒性は強いので、10℃以上を保つようにします。肥料は生育期にのみ施します。
  4. キンギアヌム系デンドロビウム
    オーストラリアに生えるキンギアヌムは丈夫な小型デンドロビウムです。低温にも耐え高芽を良く生じて繁殖しますので、近年はこれの交配種も多く作られています。デンドロビウム・スペシオスム(タイミンセキコク)との交配種がスペシオキンギアヌムで、ずっと大型になり賑やかに多花をつけます。さらにベリー、イースター・パレード、ホホエミ等のこの系統の品種が開発されています。
  5. その他の原種
    デンドロビウムは極めて変化に富んだ大属で、美しく変った原種が数多くあります。デンドロビウムのコレクションを始めると、そのあまりの多様さに匙を投げたくなるでしょう。高温を必要とするラシアンセラ、逆に高温を嫌うクスバートソニー、ビクトリア・レギネ等は蒸し暑い日本の夏を越すのに苦労する美種です。一般に、高温を嫌う種は、高温を要求する種より育てにくいもので、暖房の方が冷房よりずっと容易です。昔、洋蘭趣味がお金持ちの道楽だった時代には、お金持ち達はこの様な暑さに耐えられない蘭は、軽井沢のような避暑地に連れて行って面倒を見たのでしょう。今は優れた冷房装置がありますので、このようなクールタイプの蘭専用の冷房室も作られています。しかし考えてみてください。真夏の直射光下の締め切ったガラス室は、凄まじい高温になるはずです。これを、暑がりの蘭達に好適な温度に下げるには、かなりのエネルギーが必要です。夏中クーラーを全開にして置いたら、大変な電力を消費してしまいます。
  6. デンドロビウムの栽培
    一般に広く作られているノビル系デンドロビウムを中心に、家庭での育て方の要点を書いてみます。デンドロビウムは代表的な着生蘭で、自然状態では樹上生活者なのです。着生蘭の特徴として、貯水のための器官として、肥厚したバルブ(偽球茎)を持っています。自然界では不規則な降雨を頼りに、生活しなければなりませんから、降った水を吸収して体内に貯蔵し、必要なときに利用して生育しなければなりません。ノビル系デンドロビウムは肥厚した円柱状のバルブを作り、そこに水分・養分を溜め込んで生育開花します。種類によっては、バルブの代わりに肥厚した葉を持ち、其の中に貯水するものもあります。多くの蘭は着生種ですので、水遣りは乾いてから与えるのが基本です。何時も濡らして置くのは、決して良いことではありません。特に気温が低いときに水浸しにしておくと、根腐れなど病気の原因になります。従って通風も大切な要素です。風の通る梢の上で生活していたデンドロビウムにとって、無風状態というのは異常環境なのです。それに日照です。樹上で熱帯の強光線を浴びて生育していたデンドロビウムは、強い光を好みます。日陰で育てると、葉は大きく育ちますが、花が咲きません。観葉植物が出来上がります。肥料は、自生地では、まれに鳥の糞や虫の死骸が寄与する場合がありますが、殆ど無肥料状態で健康に生育しています。これは蘭科植物の根にはカビの一種(蘭菌と呼ばれる)が共生していて、外部の有機物を分解し、蘭が利用できる形にする事も一因です。従って、肥料は多量に施す必要はありません。園芸用の液肥を草花の標準の半分以下の濃度で十分です。一般には、油粕と骨粉を混ぜて固めた固形肥料を、生育期間に数回鉢の表面に置いてやるだけで十分です。生育が終わってから、まだ窒素肥料が効いていると、花芽が出来ず、葉芽だけになってしまいます。7月以降は肥料遣りを中止し、水と光と風だけで育ててください。ノビル系に限って言えば、秋の末に、低温条件に会わせることが必要です。カトレヤ等を温室に取り込む季節になっても、ノビル系デンドロビウムだけはそのまま外に置いてください。但し霜に当たると、枯れてしまいますので、降霜の直前に取り込みます。暖かな室内に置いてやれば、立派に育ったバルブの節ごとに花芽が生長し、春には綺麗な花が咲くでしょう。
デンドロビウム 1
デンドロビウム 2
デンドロビウム 3
蘭学事始(6)  高村忠彦(5班) 2004.07.07
オンシジウムとその仲間達
 オンシジウムは中南米に広く分布する蘭で、400種以上の変化に富んだ原種を含み、生育環境も変化に富んでいるため栽培は容易なものから困難なものまで様々です。多く栽培されているのは、広い黄色の唇弁を持った小花を散開するバリコースム、フレキシオスム等を交配した、賑やかな品種です。ジャワ、ゴワー・ラムゼイ、アロハ・イワナガ、ノナ、ミルキー・ウェイ、スター・ウォーズ、タカ等多くの品種が見られます。これらの花を良く見ると、黄色い幅広のスカートを広げて女性が踊っているように見えますので、「ダンシング・レディ」と言う渾名が付いています。この類は薄葉系と呼ばれ、比較的栽培容易な品種が多いので、お勧めです。この他、ケイロフォルムと言う矮性で小さい花を沢山着ける種と、その交配種(ククー等)も作りやすいので人気ですし、草は大きくなりますが花が小型でまるでカスミソウのように無数の花を散開するオブリザツムも、蘭展の修景用に多用されてよく目にするようになりました。オンシジウムは、多くの種類を含む大属ですので、中には大変変った花を開く種もあり、コレクションの対象としても面白いグループです。色も黄色だけではなく、紫系統の花を開く美しい種もあります。
 オンシジウムに近い属に、オドントグロッスムがあります。これはヨーロッパ各国では、大変人気の蘭で重要な属です。ところが日本では今ひとつ人気がありません。これは交配の中心となったオドントグロッスム・クリスプムが、アンデス山脈の高地に産する高山植物で、日本の夏の高温多湿の気候では、栽培しにくい事と、花弁に入る複雑な斑紋が余り好まれない事が原因であろうと思われます。同じようなアンデスの高地産の、コクリオダも近縁のもので、美しい朱赤色の色を導入するため、オドントグロッスムと交配され、オドンチオダが作り出され、さらにミルトニアとの交配でブィルステケアラ、オンシジウムとの交配で、ウィルソナラ等の新属が作出されています。
 ミルトニアも近縁属の一つですが、やはり日本の蒸し暑さに耐えられない事が多く、特に交配の中心となったベキシラリアやファレノプシス(=ミルトニオプシス・ファレノプシス)は、アンデスの高山植物で暑さは苦手です。一方、スペクタビリスやフラベスケンスは暑さに強く作りやすいものです。
 ブラシアもオンシジウム近縁の蘭で、細長い花弁が特徴でスパイダーオーキッド(蜘蛛蘭)等と呼ばれます。オンシジウムと交配してブラッシジウムが作られ、50種以上が登録されています。ブラシアの原種は30種程が知られていますが、一般に作られているのは、レックスと言うベルコサとギレオウディアナの交配種が多いようです。
 オンシジウムの栽培は、比較的丈夫な種類が多いので、カトレヤ等に準じた扱いでよく出来ます。但し種類によっては特別な扱いを必要とするものもありますので、入手時に聞いて確認してください。一般の薄葉系の物や、ケイロフォルム等は栽培容易なグループです。生長期には、水、肥料を十分に与え、バルブが完成したら乾きめに育てるのは、他の着生蘭と同様です。日照は好む物が多いので、春〜秋は屋外で充分陽に当てて作ります。冬は休眠期になりますので、10℃以上に保ち、水は完全に乾いたら与えるようにします。肥料は不要です。暖かい温室内では、新芽が出て生育するようでしたら、普通に水と肥料を与えてください。
オンシジウム交配種
オドントグロッスム交配種
2004年東京ドーム蘭展ディスプレイ
蘭学事始(7)  高村忠彦(5班) 2004.08.04
パフィオペディルム
 パフィオペディルム(パフィオ)は、唇弁が袋状になった特徴のある花で知られる洋蘭の一つで、このような仲間を英語で「レディーズ・スリッパー」と呼びます。このよう なスリッパーの仲間は、他に「フラグミペディウム、シプリペディウム、セレニペディウム」があります。パフィオは東南アジアに分布する、趣のある花を開く一群で、昔はシプリペディウムと混同されて「シップ」と呼ばれていたこともありますが、シプリペディウムは北半球の温帯に広く見られる地生蘭で、日本にもクマガイソウ、アツモリソウ、コアツモリソウ、キバナノアツモリソウ等が自生しています。フラグミペディウムは、中南米の熱帯に自生する蘭で、特に美しい朱赤色の花を開くベッセーや側花弁が長く垂れ下がるコウダツム等が有名です。セレニペディウムは同じ中南米が産地ですが、植物体に比べて花が小さく、花色も地味なので殆ど栽培されていません。
 パフィオは、その特異な花形が愛されて、人気の洋蘭の一つです。幾つかの亜属に分け られていますが、最近人気なのがポリアンサ亜属で、1花茎に複数の花を着け、大型で立派な物が多いのです。ロスチャイルディアナムはこの亜属の代表種で、セントスイシン、トランスバール、レディ・イサベル、ロルフェイ、バンガード、アイアンサ・ステージ等は、ロスチャイルディアヌムを片親にした交配種です。ポリアンサ亜属はパフィオの中ではやや高温を好みますので、カトレヤ並みの温度管理で栽培します。インシグネ、スピセリアヌム、ビロッスム等の青葉系(葉に斑紋が入らない系統)は、比較的低温でも生育する丈夫な種類ですので、初心者向けと言ってよいでしょう。リーアヌム(インシグネ×スピセリアヌム)等の交配種も同様です。
 カロスムは縦長の花が特徴的な育てやすい種類ですが、この系統の花の中に、グリーンの花を着けるタイプが好まれて、多く営利的に栽培されています。モーディー・マグニフィクム、ガウエリアヌム、グールテニアヌム・アルブム、アルマ・ゲバート等が愛培されています。比較的近年に中国雲南省等で発見されたミクランツム、アルメニアクム、は、パルビセパルム亜属の種で、前に突き出した袋状のリップはシプリペディウム属を思わせ、長い根茎を引いて繁殖する点も、シプリペディウムに似ています。アルメニアクムの杏黄色やミクランツムの紫色は、パフィオの他種に見られない美しいもので、早速交配されて色の導入が図られました。整形大輪花に杏黄色を導入した株は、東京ドームの世界蘭展日本大賞で大賞を得、脚光を浴びました。ミクランツムの紫は、同じ紫の色を持つデレナティーと交配されて、マジックランタンという佳品を生んでいます。その他、パフィオは趣味家の間で様々の原種と交配種が好みのままに栽培され、主要品種と言っても枚挙に暇がありません。特にパフィオはまだメリクロンによる大量増殖法 が確立されていません。従って優良個体は、驚くような高値で取引され、骨董品的お宝 になっています。白花系の交配親として重要なのがニビウムで、マレーシア北部の島嶼の岩場に自生しています。
 2002年にマレーシアで開かれた世界蘭会議の折に、ランカウイ島の海岸にモーターボートで自生地見学に行ってきました。白い小型の可愛い花が沢山咲いていました。皆感激して写真を撮ろうとシャッターを切りましたが、船の上からなので距離が遠すぎ、思ったような写真は撮れませんでした。パフィオ近縁属とパフィオの交配は、極めて困難で、実用的には行われていません。フラグミペディウム・ベッセーの朱赤色をパフィオに導入したいと言う試みは、残念ながら成功していません。交配した植物体は存在して、フラグミパフィルムと言う、新属名が与えられているのですが、まだ開花に至っていないようです。
パフィオペディルム アンバー・シェル
パフィオペディルム ロビン・フッド
フラグミペディウム ベッセー
パフィオペディルムの栽培
 パフィオは殆どの種が地生蘭で、バルブを持っていません。従って、極端な乾燥を嫌います。着生蘭は乾湿の繰り返しを好みますが、パフィオは何時もコンポストが湿っているように管理します。また肥料分は濃いものは根を傷める恐れがありますので、他の蘭よりもさらに薄い物を与えるようにします。根の本数が少なく折れやすいので、植替えの時は気をつけて取り扱います。コンポストは水苔でも良いのですが、最近は軽石にバーク等を混ぜたミックスコンポを使う人が増えています。一般に、低日照を好む物が多く、温室の棚下等でも良く出来ますが、ポリアンサ亜属の 種はカトレヤ並みの日照が良いかもしれません。温度は、ポリアンサ亜属以外は比較的 低温に耐えますし、パルビセパルム亜属のものは低温に合わせないと開花しにくいと言われます。ゆっくりと生長し、花が長持ちし(2ヶ月にも及びます)ますので、余り慌てずにじっくりと育ててください。何時の間にやら蕾が出てきて、嬉しい花が咲きます。秋〜冬咲き、春咲き、夏咲き、秋咲き、不定期咲き等色々な種類がありますので、上手に集めれば、一年中花が楽しめるでしょう。
蘭学事始(8)  高村忠彦(5班) 2004.09.07
リカステ
 リカステは、中南米のアンデス山系に多く自生する、美しい洋蘭です。代表種はリカステ・スキンネリーで大きな卵形のバルブの基部から花茎を伸ばし、先端に1花ずつ大型の三角形の花を開きます。良く育ったバルブからは、花茎が沢山立ちますので、豪華な花鉢になります。スキンネリーは一番豪華な花を開き、色彩も美しいのでリカステの交配種の中心的存在ですが、生育地がアンデス山地の標高の高い地域なので、暑さに弱く日本の夏の蒸し暑さには耐え難い欠点があります。色々な交配種が作られていますが、スキンネリー起源のものは、暑さを嫌うので注意が必要です。アクイラ、オーバーン、ワイルドコート、エリザベス・パウエル、マカマ、ジャックポット、カリーナ、クーレナ、サンレイ、ショールヘブン、ワイルドファイヤー等、各種の交配種が作り出され、各地の洋蘭展で入賞しています。
 リカステに近い属に、アングロアが有り、花が平開せずにカップ咲きとなりますので、チューリップ・オーキッド等と呼ばれます。これとリカステを交配したものを、アングロカステと呼び、一般にリカステよりやや大型で豪華な良種ができています。オリンパス、チューダー、テッサバロー、等の有名種があります。スキンネリー以外の原種には、アロマティカ、ブレビスパタ、トリコロル、等の小型ですが、魅力的な種類があり、スキンネリーほど暑がらず作りやすいので、お勧めです。特にアロマティカは、小型ですが丈夫で黄色い花を沢山咲かせて良い香りがします。
リカステ・ショーナンビート
リカステ交配種
リカステ・メモリア・ビルコングレトン「コロナ」
リカステの栽培
 着生蘭の性質が強いので、カトレヤ並みの扱いでよく出来ます。温度も10℃以上有れば良く、スキンネリーとその交配種は夏の暑さのほうが問題です。夏は出来るだけ涼しい木陰などで、良く風に当てて栽培すると良いでしょう。葉を大きく育ててバルブを充実させ、花芽を沢山着けさせます。花が咲く頃になると、大きく伸びた葉は痛んでみすぼらしくなる事がありますが、鑑賞の邪魔になる場合は切除しても良いでしょう。花が終わると、新芽が伸び始めますので、植え替えて肥料と水を十分に与えて大きく育てます。バルブが完成したら、水遣りを徐々に減らして休眠に向わせます。大きく膨らんだバルブの基部から、蕾が見え始めたら少し水遣りを増やして、蕾の生長を助けてやりましょう。
蘭学事始(9)  高村忠彦(5班) 2004.10.07
コチョウラン(ファレノプシス)
 ファレノプシスは、代表的な洋蘭として広く普及していて、イベントの装飾や贈答用として最も多く使われている蘭花と言えるでしょう。しかし、決してアマチュアの家庭で栽培し易い種類とは言えません。折角知人から頂戴しても、花が終わると段々に衰えて枯れてしまう、「使い捨ての蘭」なのです。
 ファレノプシスの栽培は、まず低温に弱いことが失敗の原因と考えられます。生育には最低18℃が欲しく、一般家庭では冬の朝の最低気温を18℃以上に保つのはかなり困難なことでしょう。それでも近年は、コチョウランを立派に咲かせているアマチュアが、増えているように思います。そういう方に栽培環境を聞いてみると、概ねマンション住いの方です。ファレノプシスは、低日照を好み、多湿を好みますので、室内栽培には向いているわけです。多湿は保持するために、工夫が必要ですが、強光を当てる必要がありませんので、屋外に出さなくとも立派に花が咲きます。マンションの室内でも、立派な花が咲くでしょう。
ファレノプシス・ブラザーガール・ブラザー
ファレノプシス交配種
ファレノプシス・シレリアナ
 ファレノプシスの交配種といえば、緩やかに下垂する花茎に多数の美花を2列に整然と並べて着けた、素晴らしい花鉢が生産されており、日本の洋蘭の鉢花生産額の第一位を占めています。この様な素敵なコチョウラン鉢を貰ったら、まず自宅の環境を考えてください。冬の温度を保てる環境だったら、是非栽培に挑戦してみてください。多くは寄せ植えになっていますので、6月頃葉の間から新しい葉が伸びだし、新しい根が株元から見えてきたら、植替えの適期です。コンポストは水苔が良いでしょう。一株ずつ根を傷めないように、丁寧に水苔で巻いて鉢に植え込みます。最初は多少渇き気味に管理しますと、新根が伸びて新しい水苔に入り込みます。活着すると、新葉が元気に伸びてきます。それから水と薄い液肥を普通に与えて、カーテン越しの陽に当てて、新葉が旧葉より大きくなるまで大事に育ててください。
蘭学事始(10)  高村忠彦(5班) 2004.11.10
日本の野生蘭(その1
 今迄は、華やかな洋蘭の世界をご紹介してきましたが、今回は日本に野生しているラン科植物達を、紹介させていただきます。日本の野生蘭は、洋蘭ほど絢爛豪華とは言えませんが、夫々に個性があって可憐な美しさを備えています。野山を散策するとき、これらの日本の宝物にも目を向けてやってください。
@春蘭
 まず春、桜に先駆けて草むらでひっそりと咲く春蘭があります。中国にも同種があり、中国春蘭として、古来銘品が高値で取引され、骨董品的価値が付与されていました。日本春蘭もこれに倣って色の変わったものや、香りの良い物などが選抜され、銘品として雅名を与えられ、高値取引されています。同じシンビジウム系としては、寒蘭、報才蘭、辺塚蘭などが暖地に自生し、中国・東南アジア産の物と同様に栽培されています。
A紫蘭
 この蘭は案外日本の野生蘭とは認識されていませんが、千葉県内にも自生地のある、立派な野生蘭です。適応性の強い、最も栽培し易い蘭なので、昔から家庭の庭で広く作られてきました。白花、リップのみ紅色の口紅紫蘭、葉に白斑の入る斑入り葉、等の変り者が知られています。千葉市から茂原市に至る県道の、所謂鼠坂の湿った崖地は、この蘭の自生地で、花時には崖の途中に紫紅色の花が群がり咲いて、見事なものです。良く目を凝らすと、稀に白花が混じっているのを見つけることが出来ます。
Bネジバナ
 ネジバナ(モジズリ)も、立派なラン科植物です。芝生や田圃の畦道等日当たりの良い所に、可愛いピンクの花穂を立てる姿は、昔から人目を惹き愛されて来ました。最近これを小町蘭と称して、変り物を集め高値取引する業者も現れています。良く見ると整然と螺旋状に配列した花は見事としか言いようが無く、正に「造化の妙」と言うべきでしょうか。因みにこの巻き方は右巻きか左巻きかをご存知ですか。実は調べた人がいまして、ほぼ同数だったそうです。暇人!!
Cエビネ
 エビネも、近年急速に人気の高まった蘭科のグループです。エビネ属は日本に約20種程知られており、人家に近い藪影などに群生するため、古来馴染みの深い美しい野生蘭として愛されてきました。エビネ属(Calanthe)は世界に200種あって、最近は日本で数多くの交配種が作り出され、園芸化が進んでいます。特に、伊豆七島に産するニオイエビネは、大柄で見栄えのする草姿に加え、花の香りが素晴らしく、交配により遺伝しますので交配に多用されています。キエビネ(C. sieboldii)も、大型で美しく、交配種が多く作り出されています。サルメンエビネ(C. tricarinata)は、高地性でやや作りにくいところがありますが、大型で美しいリップが愛されています。ナツエビネ(C. reflexa)は、紫色の涼しげな花を、夏の盛りに開く綺麗なエビネですが、栽培上はやや気難しいところがあります。これらの常緑性のエビネ以外に、熱帯性の落葉性エビネと呼ばれているグループが有ります。このグループは、夏に大きな葉を茂らせ、大きなバルブを形成しますが、このバルブ基部から花茎を伸ばして美しい花穂をつけます。ベスティタ、ルベンス、ロゼア等の他、多くの交配種があり、洋蘭として扱われています。これら以外にエビネ属には、常緑で夏咲きのグループが有り、九州方面では夏エビネとして流通しています。ツルラン、ヒロハノカラン、オナガエビネ、リュウキュウエビネ、ユウヅルエビネ等の美しい物が知られています。これらは関東では屋外での越冬が難しいので、冬は屋内に置きます。高地性の暑がりのエビネもあり、キンセイラン、キソエビネ等は夏の暑さが苦手です。前述のサルメンエビネ等も、やや暑がりの仲間です。これら以外の、エビネ、キエビネ、キリシマエビネ及びこれらの交配種は、路地の地植えで十分良く生育しますので、庭の樹下に植え込んでやれば、良く増えて毎年美しい花を楽しめます。
Dサギソウ
 サギソウは各地の湿地や水辺に自生し、夏に白鷺が翼を開いて飛び立つような、綺麗な花を涼しげに開きます。此花は正に神様の手すさびの妙と言いましょうか、実に繊細可憐な造形で、最も美しい花と言っても過言では無い程です。我が家のサギソウは、昔外房の八積駅近くの湿原で見つけてきた物で、毎年2倍ずつ増えて今では数千株にもなり、毎年早春に行う植え替えが間に合わず、嫁入り先を探して提供しています。育ててみたい方は、どうぞお申し越し下さい。
春蘭
ネジバナ
サギ草
蘭学事始(11)  高村忠彦(5班) 2004.12.08
日本の野生蘭(その2)
Eシュスランの仲間
 山に行きますと、花は地味なのですが、葉の美しい小さな蘭に出会うことがあります。洋蘭ではこの仲間を「ジュエル・オーキッド」と呼んで、観葉植物として愛培します。葉にビロードの様な光沢が有り、色々な斑紋が美しい種類が多いのです。シュスラン、ミヤマウズラ等小さいが魅力的な葉を付ける蘭があります。しかしこの仲間は、案外気難しくてなかなか上手く育ってくれません。ミヤマウズラ等は、低い山の藪陰に良く生えて、群生しているので、気軽に採って来たくなりますが、庭ではさっぱり元気が無く、衰えてしまいます。思うに空中湿度が必要なのではないでしょうか。
Fキンラン・ギンラン
 雑木林の中でよく出会う、キンランはよく親しまれています。黄色い花を沢山つけた大株は、なかなかに美しく魅力的ですので、人里近くにあることが災いして、掘り取られてしまうことが多いようです。これを上手に栽培している人を、私は見たことがありません。私の経験ではかなりの難物です。山草屋さんのカタログに、「栽培し易い野生蘭」と書いてあったのを見たことがありますが、とんでもないことと思いました。栽培至難の野生蘭だと思います。理由が良くわからなかったのですが、この仲間のユウシュンランと言うのを知り、成る程と思いました。ユウシュンランは、葉が殆ど無く、立派に発達した菌根に栄養を依存していたのです。菌根と言うのは、根の組織内にある種の菌を住まわせ、その菌の働きで有機物を合成し、生育する生態を言います。恐らく、キンラン・ギンランは、次第にこの菌根依存を発達させる途上の植物なのでしょう。従って、菌根菌の働ける地中環境が必要なのではないでしょうか。筑波の実験植物園(国立科学博物館付属)に、遊川先生という蘭の研究家が居られます。雑談の折に、この先生にキンラン・ギンランの栽培について、お尋ねしてみたところ、あれは殆ど不可能に近いとのお話で、やはり苦労しておられるそうです。私が菌根についての推論をお話したところ、賛同していただけました。日本にも、この様な色々の蘭が生育しています。そして、日本の蘭達は「野生蘭」と言う、園芸分野で扱われて楽しまれています。以上は、主として地生蘭を紹介してきましたが、蘭の多くは樹木や岩に着生して育つ「着生蘭」で、園芸的にも着生蘭の方が進んでいるものです。
Gセキコク
 
日本産着生蘭の代表的なもので、山陸海岸から沖縄に至る全国各地の樹上に着生しています。春にバルブの節毎に数花を開き、美しい物です。花色は淡いピンクか白ですが、近縁のキバナノセキコクは緑を帯びた黄色の花を沢山着けます。姿形が変っていて栽培も容易なので、古くから園芸化され、自然の中から変り者が選び出されて「長生蘭」と呼ばれて、雅名が与えられ骨董品的高値で取引されている物もあります。日光の杉並木は、セキコクの一大産地で、春に車を運転して見上げると枝の途中に満開のセキコクを見付ける事があります。慌ててブレーキを踏むと、追突されますからご用心・ご用心。まさか杉並木の巨木によじ登るわけにもいきませんので、欲しい時は強風の吹いた後などに、産地の樹下を捜して歩けば、吹き落とされたセキコクを拾うことが出来ます。私が拾ったことのある場所は、千葉県の清澄山、東京都の高尾山・御岳山、伊豆の天城山等古木や樹叢の多く保たれた地域です。着生蘭は木の上が住家なので、乾燥に強く、風に吹き落とされた物を拾って来ても、立派に活着して栽培できます。我が家のセキコク達も元気に育って毎年花をつけてくれます。
Hフウラン
 フウランもセキコク同様日本を代表する着生蘭です。独特な花形をした可憐な白花と、素晴らしい香りが愛されて、これも古くから園芸化されています。「富貴蘭」と呼ばれ、古典園芸植物の一つとして、高値取引される蘭の一つです。フウランの大産地の一つは、出雲大社の参道の松並木でした。出雲大社の参道では、登って採ると罰が当りそうで、自然に保護される形で残ったのではないでしょうか。日本で開催された世界ラン会議では、シンボルマークにフウランの花のデザインが使用されました。この時、私が出品したホルコグロッスム・クァシピニフォリウムに頂戴した銅メダルに、そのマークがありますので、写真でご覧下さい。

 日本の野生蘭は、洋蘭に比べると華やかさは劣るかもしれませんが、良く見ると実に繊細な美しさを持ち、洋蘭との交配親としても利用価値の高い種が沢山あります。山野で見かけても、すぐに持ち帰ろうとするのではなく、野に置いたままで鑑賞する習慣をつけたいものです。何時までも日本の山野が美しい花々で彩られているように、願ってやみません。
{洋蘭と野生蘭との交配例}
デンドロビウム・カシオーペ:セキコク×ノビル  シンビジウム・ナガレックス:シュンラン×アレキサンデリー・ウェストンバート
アスコフィネチア・チェリーブロッスム:フウラン×アスコセントルム・アンプラセウム  バンドフィネチア:フウラン×バンダ
今回の野生蘭の適当な花の写真は残念ながら手持ちがありませんので、写真は割愛させていただきます。
今回を持って,私の花談義を終了とさせていただきます。

1987年世界ラン会議拝受メダル
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